本を読む

読書やコンピュータなどに関するメモ

「Q.E.D. iff」9巻、「C.M.B.」37巻

 人気ミステリーコミックシリーズの最新刊が、今回も2冊同時発売された。以下、ネタバレに気をつけているつもりだけど、未読の方は念のためご注意を。

 「Q.E.D. iff」は、「陰火」と「美しい絵」の2編を収録。どちらも、一見犯罪の不可能そうな状況でアリバイトリックを崩す話だった。

 「陰火」は、かつての殺人事件現場を訪れたオカルト番組スタッフに起きた事件の話だ。事件と以前の事件との因縁を探ると、実はそっちの因縁ではなくこっちの因縁で……というところがヒネられていた。

 「美しい絵」は、英国貴族に貸した金を回収したマフィアが殺された事件のトリックを、定年退職直前の老刑事と塔馬君が追う話。普通なら無理のあるトリックも英国貴族の館なら、というのがミソ。

 「C.M.B.」は、「クロスロード」「シュロのコイン」「鉱区A-11」「猫のシッポ」の4編を収録。

 いちばんインパクトのあった「鉱区A-11」を最初に取り上げておくと、いきなり2075年設定のSFミステリーだった。一人とロボットしかいない小惑星で死んだ作業員の謎を、“宇宙工学博士 榊森羅”と“航空宇宙監視官 七瀬立樹”が探る。この二人、初めて会ったらしい(笑)。内容は、ロボット三原則を前提に、「嘘は言わないが、すべてを言っているとは言ってない」ロボットの証言から真相を探るという、アシモフのロボットミステリーっぽい話だった。

 「クロスロード」は、毎度おなじみ同級生もの。美術部のパッとしなかった男の子が上達したころから、学校に不思議な事件が起こるという話で、状況そのものがミステリーという展開が面白かった。博物ネタは、ロバート・ジョンソンのクロスロード伝説に関係する、古今東西の十字路伝説。

 「シュロのコイン」は、紛争地帯を生き延びた村の謎を追うマウに、森羅君が巻き込まれる。博物ネタは、シュロにまつわる言いつたえ。

 「猫のシッポ」は、地方都市に退屈した小学生たちが宝探しに出る話。ブラタモリっぽい地形の由来から、言い伝えの場所を探す、爽やかな話だった。

「荒神」

 NHKドラマ化ということで放映されてた予告編が面白そうなので、まず原作小説を読んでみたら、これがすごく面白かった。

 ざっくりいうと、江戸時代(元禄時代)の東北(福島)の山あいの村でゴジラみたいな怪物が暴れる話だ。最初に怪物が暴れる様子を謎のまま提示し、しばらく怪物そのものを出さずに背景となる物語を進め、中盤以降から一気に怪物との戦いを描く、という定番の構成をとっている。その緊迫感や怪物の描写にぐいぐいと引き込まれ、文庫で650ページぐらいの長編を一気に読んだ。

 怪物が中心のストーリーなわけだけど、そこにさまざまな物語が絡みあってストーリを立体的にしている。舞台としては、隣接する2つの藩の対立が背景となっている。そこに謎の出自の兄妹やら、猟師の老人やら、流れ者の浪人やら、旅の絵師やら、謎の寺やら、呪われた一族やら、養蚕と薬草やら、公儀隠密やら。そして、それぞれの人々の思惑が干渉しあって、読者にも登場人物にも意外な方向に転がるというのが手練れのミステリー作家ならではの手腕だと思った。

 本書は、シン・ゴジラの元ネタの一つという説もあるらしい(諸説あります)。なお、文庫版の解説は樋口真嗣監督が書いている。

 さて、こうの史代さんの挿絵集「荒神絵巻」も買うかな。

「宇喜多の捨て嫁」

 木下昌輝氏のことは「決戦! シリーズ」で、真田信繁と幸村を描いた「日本一の兵」を読み、トリッキーな話を書く人だなと思った。本書はそのデビュー作にして5冠を受賞した作品で、やはりトリッキーでよかった。

 戦国の梟雄として名高い宇喜多直家の生涯を、連作短編形式で描く。1話目が四女の視点から直家の非情さを描いた表題作で、最晩年にあたる。そこで出てきた要素やエピソードが、伏線のように2話目以降にそれぞれ現れて、意味がわかるようになっている。

 各話で視点となる人物が異なり、そのたびに直家の印象が変わってくるのが面白い。内容は悲劇の連続なのだけど、書き方は乾いている。そして結末。

「武器を磨け 弱者の戦略教科書『キングダム』」

 人気漫画「キングダム」に学ぶビジネスマン処世訓というありそうな企画だけど、本書は、著者が佐藤優氏ということで興味を持って読んだ。自分にとって佐藤優氏の著作は、何を言っているか以上に、どう言っているかに興味がある。

 本書では、熱血ヒーローものを題材にしながら、冒頭でいきなり「「一発大逆転」のような発想は非常に危険」として、そのようなことが書いてある自己啓発書は「一種のポルノ」と切り捨てている。

 そのほか「損益分岐点を越えることのできる案件を確実にこなす。一度だけ大ヒットを飛ばしただけの人は邪魔な人」「組織内の不義や悪について、事を荒立てない」「交渉では勝ちにこだわらず相手に51%を確保させることも考える」とか。

 というぐあいに、ヒーローものとある意味で正反対の、元外交官の勝ちより実を取る処世術が語られているというところが興味深かった。

「「日本の伝統」の正体」

 藤井青銅氏というと、私の場合はヒーローアニメ制作の現場を題材にしたギャグ小説「愛と青春のサンバイマン」を思い出す。その藤井青銅氏が、「日本の伝統」とされているものに軽妙な文でツッコミを入れている本だ。

 各章のタイトルが「季節にすり寄る「伝統」」「家庭の中の「伝統」」「「江戸っぽい」と「京都マジック」」「「国」が先か? 「伝統」が先か?」「「神社仏閣」と「祭り」と「郷土芸能」」「「外国」が「伝統」を創る」というぐあいで、いかにも伝統っぽいものが出てきそうな元が並んでいる。そのへんが気になって読んだら、面白かった。

 もともと伝統とか、特に京都がらみのものとかに詳しくないので、そういう伝統があるんだというのも含めて、へーそうなんだと読んだ。あと、「江戸時代には『鎖国』という言葉は使われていなかったから鎖国はなかったというなら『江戸時代』はどうする」というツッコミもクスリとした。

 以下、ほぼ自分用メモ。

  • 川崎大師と成田不動への初詣が多いのは、江戸から見て恵方にあるから
  • 初詣は明治18年に鉄道会社のキャンペーンで始まった
  • 初日の出を拝むのは、江戸時代中期から
  • 正月のおせちを重箱に詰めるようになり始めたのは幕末から明治にかけて
  • 箱根駅伝のTV中継は昭和62年から
  • 七五三が一般的になったのは明治30年代から(デパートができたころから)
  • 「夏に鰻」は平賀源内よりだいぶ古く、大伴家持
  • 仏前結婚(明治25年)は神前結婚式(明治33年)より少しだけ古く、いずれもキリスト教式結婚式(明治6年)の影響
  • 平民に名字が付いて明治9年の太政官指令では夫婦別姓
  • 良妻賢母の「賢母」は明治6年に幼児教育のため母親にも教育が必要という西洋的なもの。その反動で作られたのが儒教的な「良妻賢母」(明治32年)
  • 卵かけごはんを最初に食べた人として文献に残っているのは明治5年の岸田吟香(岸田劉生の父)
  • 「正座」という言葉は明治から
  • 喪服が黒になったのは、大正元年の明治天皇崩御から
  • 「告別式」は無神論者・無宗教の中江兆民の葬儀(明治34年)の葬式のかわりから
  • 京都三大漬物の一つの千枚漬けは、幕末ギリギリの慶応元年から
  • 満願寺とうがらしは、大正末から昭和初期にかけて、伏見系とカリフォルニア・ワンダー系のとうがらしを交配して生まれたもの。京都市内に満願寺はない
  • 越前竹人形は水上勉の小説のほうが先で、後から民芸品が作られた
  • 相撲が国技というのは、明治42年に両国に相撲の常設館ができたときに勝手に名乗ったもの
  • 平安神宮は明治27年から
  • 天皇家の葬儀が神式になったのは明治元年から
  • 神社の「御朱印」は、昭和10年ごろの鉄道駅・郵便局名所・著名社寺などのスタンプブームから
  • 津軽三味線の叩き奏法は幕末に生まれ、明治に祭などの場所で音を立てるために太棹とともに作り上げられた
  • 北海道の民芸品の「木彫りの熊」は、大正10年に徳川義親がスイスのベルン視察で土産に買った木彫りの熊が元

「山と食欲と私」第1巻〜

 書店の平積みコーナーで並んでいて、ちょっと面白そうだったので、現在出ている第6巻まで全巻読んだ。

 1話完結形式で、登山+メシの話を毎回描いているマンガだ。主人公は単独登山女子で、山ガールと呼ばれるのは好きじゃないらしい。求道的だったりイージーすぎたりする感じではなく、たぶんリアルなバランスなんじゃないかと思う(登山知らないけど)。「実践!百名山」とかっぽい印象を持った。

 食事はそんなに凝ったものでもエクストリームなものでもなくて、絶景や山頂と合わせたご褒美といったものだ。おなかがすくというより山に登りたくなる感じ(そんな体力ないけど)。

 単独行なのでレギュラーメンバーで回していく回ばかりにならないのが好みだった。で、山にやってきたさまざまな人達の話がバラエティに富んでいる。幽霊もね(笑)。

「決戦! 賤ヶ岳」「『決戦!賤ヶ岳』七本槍ドラフト軍議」

 複数の作家が1つの合戦についてそれぞれ1人ずつの武将を主人公に書く短編集シリーズの新作。今回はそのフォーマットにもとづき、賤ヶ岳の戦いを舞台に「賤ヶ岳の七本槍」の7人を描く。ちなみに著者陣もアンダー50に。

 賤ヶ岳の七本槍のメンバーは、だいたい20才そこそこで、名家の出とかでもないので、これまでのシリーズとは違い若手の必死の活躍という感が強い。加藤清正を描いた木下昌輝「槍よ、愚直なれ」は、特にそんな感じの青っぽい姿を描く。

 賤ヶ岳の七本槍は(いわゆる「○○将」というの全般だが)、秀吉の部下を誇示するという意味が強く、特に加藤清正や福島正則を売り出したものだと言われ、福島正則が「脇坂などといっしょにするな」と言ったとかなんとか。本書でも、糟屋武則を描いた「糟屋助右衛門の武功」、脇坂安治を描いた「しつこい男」、平野長泰を描いた「権平の推理」、加藤嘉明を描いた「孫六の刀」あたりでは、そのへんのコンプレックスが扱われている。

 一方、「ひとしずく」は題材をひねって、晩年の福島正則の回想の形式をとる。また、片桐且元を描いた「器」は、浅井家時代から大坂の陣までの鬱屈とした気持ちがつづられる。片桐さん……。

 そして全作の背後にいる秀吉の姿。今回は秀吉側の武将ばかりを扱っているので、柴田側は敵勢として描かれていて、特に拝郷五左衛門はいろいろな作品に登場する。また、七本槍の8人目だか9人目だかの石川兵助の兜エピは、「権平の推理」「孫六の刀」で扱われている。あと、「槍よ、愚直なれ」の最後のネタは、大塩金右衛門の別のエピをひねったものか。

 「決戦! 賤ヶ岳」の執筆の裏側というか、担当決めの話しあいを収録した「小説現代」の記事「『決戦!賤ヶ岳』七本槍ドラフト軍議」もKindleのほうで公開されていた(0円)。

 七本槍に関する話やら、作品のアイデアやらと、「決戦! 賤ヶ岳」を読んだあとに読むと興味深い。マイナー勢に人気が集まって、清正が最初出てこないとか、「七本槍は賤ヶ岳の後が面白い」という発言とか。事前予想では「七本槍で思い出せない人」(三谷幸喜)こと平野長泰が7位だったけど、さて?

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